Report市場調査レポート

ALPS処理水海洋放出から1ヶ月経過後の中国・香港の現状について

公開日:2023年9月29日

 

ポイント

  • ALPS処理水海洋放出が開始されて以降、日本産水産物への厳しい目は日に日に増している
  • 中国や香港に住む多くの人々の日本産水産物に対するマインドが短期間で劇的に変化
  • 一度定着した日本産水産物への不安イメージの払拭には一定期間かかると推測される

2023年8月24日、福島第一原子力発電所の廃炉作業の一環である多核種除去設備等処理水(以下、ALPS処理水という)の海洋放出が始まりました。このALPS処理水海洋放出の一連の流れを受けて、中国では日本産水産物の全面輸入禁止措置、香港では日本10都県の水産物の輸入禁止措置、が取られるようになり、これまで中国や香港にホタテやナマコ等を輸出していた日本の水産業従事者はもちろんのこと、中国と香港の数多の日本料理店やスーパー等に大きな影響を及ぼしています。また、既に日本でも報道はされていますが、ALPS処理水海洋放出に関するありとあらゆる情報もSNS上で溢れています。
今回の海外ビジネス通信では、中国の日本料理店の動向、日本から水産物を輸入している中国と香港のバイヤーの動向、の2点に絞り、ALPS処理水海洋放出から1ヶ月が経過した中国と香港の現状について、現地でのインタビュー結果を交えながらお伝えします。

 

中国や香港の現状

今回、中国の日本料理店(日系寿司チェーン)に赴き、そこで働く従業員と食事に来ていた中国人客に実際にインタビューを行いました。また、日本から水産物を輸入している中国と香港のバイヤーからも直接話を聞くことができました。
まず、中国の日本料理店(日系寿司チェーン)の動向について、ALPS処理水海洋放出前と後では客入り状況に雲泥の差が生まれています。これまで昼食時間や夕食時間でなくとも常に順番待ちの状態が続いていた高人気店でしたが、ALPS処理水海洋放出から1ヶ月経過後は、休日の夕食時間の真っ只中であるのにも関わらず、全客席の1/4程度しか集客できていません。
従業員にインタビューをすると、「日本がALPS処理水を海洋放出する直前には中国人の駆け込み需要はあった。しかし、日本の海鮮は危険だという情報が相次いでSNSに出回ったことで、今では店に来るのは日本人や欧米人といった外国人ぐらいで、中国人客はさっぱり来なくなった。本来ならば中国人は寿司好きな人が多いはずであり、店では日本産の魚を使用している訳でもないのにおかしい。やっぱりSNSでの情報拡散が大きな理由かもしれない。」という回答がありました。
また、食事に来ていた中国人客に、ALPS処理水海洋放出についてどう考えているか?どうして寿司を食べに来たのか?を尋ねたところ、「ALPS処理水は体に何か悪影響を及ぼすかもしれないから、怖いという気持ちは確かにあるが、日本が科学的根拠に照らし合わせて海洋放出しているのならばきっと大丈夫なのではないか。しかし、微博(中国のSNS)やbilibili(中国の動画共有サイト)にてALPS処理水海洋放出に関する批判等は大量に流れているので、”日本の海鮮=怖い”、とほとんどの中国人はそう捉えているはず。だから、中国人が寿司を食べなくなったのは何も不思議ではなく、自然なことではないか。」という回答があり、この1ヶ月間で多数の中国人のマインドに変化が起きています。今なおSNS等では、ALPS処理水海洋放出に関して不安感や不信感をもたらすような情報が拡散されており、実際に訪問した日系寿司チェーンをはじめ、多くの日本料理店が集客状況の回復にはまだほど遠いのが現状です。
つぎに、日本から水産物を輸入している中国と香港のバイヤーの動向について、中国のバイヤーは日本産水産物の全面禁輸措置を受けて仕入を完全にストップしていますが、香港のバイヤーにおいては日本産水産物の仕入状況はバイヤーによって少し異なっています。
中国のバイヤーにインタビューしたところ、「日本の水産物は中国の水産物よりも一般的に価格は高いが、商品の質はとても良いため人気がある。しかし、今現状においては中国国内で日本の水産物を取扱うことができない。全面輸入禁止措置が緩和すれば日本の水産物の輸入再開も検討したいが、その頃までには日本の水産物は危険だという考えが中国人の中で定着し、もしかすると中国国内で日本の水産物の需要がなくなっているかもしれない。不安だ。」という、先行きを憂える回答がありました。
香港のバイヤーにおいても、「香港の市況をじっくりと様子見してから対応したい」という消極的な考えを持つ方が多数でしたが、一方で、「当面は日本産水産物の価格は全体的に下がる。また、いずれは輸入禁止措置が緩和され、香港の人々の感情も落ち着くだろうから今が買い時。」という前向きな考えを持つ方は少数いました。

 

まとめ

ALPS処理水海洋放出から1ヶ月経過しましたが、総じて日本産水産物には厳しい目が向けられており、その傾向は日に日に増しています。1ヶ月という短期間で、中国や香港に住む多くの人々の日本産水産物に対するマインドが劇的に変化している、と見て取れます。
SNS等ではALPS処理水海洋放出に関して人々の不安を煽るような真偽不透明な情報が溢れているため、どうしても中国や香港の人々は日本産水産物に安心感を得られない状況です。そのため、一度定着した不安イメージを払拭するのに一定期間かかるのではないかと推測しますが、再び日本産水産物が安心感を取り戻し、中国や香港で賑わいを見せることを期待します。

 

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